認知療法・認知行動療法とは
私たちの心や生活は,さまざまな要素の相互作用から成り立っています。たとえば,私たちは状況や他者
(家族,同僚,友人など)と日々,影響しあいながら暮らしています。同様に,私たち自身においても,
認知(頭のなかに浮かぶ考えやイメージ),行動,気分・感情,身体は,つねに相互作用しあっています
。認知療法・認知行動療法は,そのなかでも,特に「認知」と「行動」に焦点をあてながら進めていく心
理療法です(図1参照)。なぜ「認知」と「行動」に焦点を当てるのでしょうか?それは,決して気分や身
体を軽視しているからではありません。認知療法,認知行動療法が,「認知」と「行動」に着目するのは
,それらが比較的把握しやすく,修正をしたり,幅を広げたりしやすいからなのです。
◇ たとえば,こんなケースを考えてみましょう。
Aさんは,仕事でちょっとしたミスをしてしまい(状況),「しまった。なんて自分は駄目なんだろう」
と考え(認知),落ち込みました(気分・感情)。Aさんはやむなくそれを上司に報告し,謝罪します
(行動)。「上司に駄目なやつだと思われるにちがいない」と思った(認知)Aさんの心臓はドキドキし
,足もガクガクしてきました(身体)。上司は,「困るよ。この前と同じミスじゃないか」とAさんに言
いました(他者)。Aさんは,「これでまた評価が下がってしまった。この仕事はもう自分には任せても
らえないだろう」と思い(認知),上司が次の会議で,「Aさんの仕事は,別の人にやってもらうことに
したよ」と話している姿を想像し(認知),悲しくなり,ひどく落ち込みました(感情)。胃も痛くなっ
てきました(身体)。Aさんはすっかりやる気を失ってしまい(気分・感情),他にしなければならない
仕事にも手をつけられなくなってしまいました(行動)。
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Aさんの事例を,認知療法・認知行動療法で用いる相互作用モデル(以下,"認知行動モデル"と
呼びます)にあてはめると,図2のようになります。状況,他者,認知,行動,気分・感情,身体が循環的
に相互作用しているのがおわかりいただけるかと思います。認知療法では,このようにさまざまな体験を
,認知行動モデルにあてはめて把握します。
さて,ミスをして上司に注意されたことによりひどく落ち込んだAさんは,どのように落ち込みから回復
すると良いでしょうか?Aさんは,今,図2のような悪循環のなかにいます。この悪循環をどこかで断ち
切ることが必要です。"ミスをした""上司に注意された"という事実は変えようがあ
りません。また身体的反応や気分・感情を直接的に変えるのは無理なことです(落ち込んでいる人に「落
ち込むな」と直接命じることに意味がないのと同じです)。そこで比較的,修正が容易なのが,認知と行
動なのです。
Aさんは,「なんて自分は駄目なんだろう」と考えて落ち込みましたが,たとえばその後に,「確かにミ
スはしたけれど,だからと言って,それは"自分は駄目だ"ということではない」「次に同じミ
スをしないためには,どうしたらよいのだろう」と考え直すことができれば,落ち込みは多少軽くなるか
もしれません。,上司に報告するとき,ただ謝罪するのではなく,「またミスをしてしまいました。今後こ
のようなことがないように,事前にBさんにチェックしてもらおうと考えたのですが,いかがでしょうか
?」と改善案を提案してみる,ということができれば,上司の反応も変わってくるかもしれません。ある
いは,「仕事を任せてもらえないだろう」と考え,そのことを上司が会議で発言するのをイメージした後
に,「ちょっと待てよ。こんなふうに考えてさらに落ち込んで,別の仕事もできなくなってしまったら,
ますます評価が下がってしまう。今,目の前にある仕事にとりあえず集中してみよう」と考え直すことが
できれば,気を取り直して,仕事を再開できるかもしれません。このような修正のプロセスを図3のよう
に表すことができます。
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さて,何かストレスに感じるようなことが起きたとき,私たちは必要以上に落ち込まないよう,上のよう
な認知や行動の修正を,無意識のうちに行っています(図3の★★★の部分)。しかし,うつや不安などで
,心が元気でなくなってしまうと,そのような修正を一人で行うことができなくなってしまいます。認知
療法・認知行動療法では,クライアント(来談者)が,自分の気持ちを再び自分で立て直すことができる
ように,さまざまな心理学的手法を用いて教育的援助をします。
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